<腎臓内科医からみた熱中症の原因と対策>
連日、厳しい暑さが続き、熱中症になる危険性が高まっています。熱中症は、立ちくらみや頭痛、だるさだけでなく、重症化すると意識障害や命に関わる恐れもある大変危険な状態です。
そして実は、熱中症の影で最もダメージを受け、悲鳴を上げている臓器の一つが腎臓であることをご存知でしょうか。今回は、全身の水分と塩分のバランスを管理するスペシャリストである「腎臓内科医」の視点から、熱中症が体に及ぼす本当の恐ろしさ、段階的な症状、そして医学的に正しい対策について分かりやすく解説いたします。
なぜ腎臓内科医が熱中症を危惧するのか
腎臓は、24時間絶え間なく血液をろ過して尿を作り、体内の老廃物や余分な水分・塩分を排出する巨大なフィルターです。このフィルターが正常に働くためには、常に十分な血液が腎臓に流れ込んでいる必要があります。
しかし、熱中症による深刻な脱水症状が起こると、体の中で急性腎障害(AKI)のリスクが高まります。大量の汗をかいて体内の水分が失われると、血液の量が減り、血圧が低下します。すると、体は脳や心臓などの最重要臓器を守るために、腎臓への血液量を急激に減らしてしまいます。
血液による酸素や栄養が十分に届かなくなった腎臓の細胞は酸欠状態に陥り、急速に機能が低下します。最悪の場合、人工透析治療が必要になることもあるため、熱中症による脱水は決して侮れません。
見逃さないでほしい熱中症の段階的な症状
熱中症の症状は、体に溜まった熱や脱水の進行度によって、段階的に変化します。初期のサインに早く気づくことが、重症化を防ぐ鍵となります。
初期症状:軽症(Ⅰ度)
現場での応急処置で回復が期待できるレベルです。
| めまい・立ちくらみ | 脳への血流が一時的に減ることで起こります(熱失神)。 |
|---|---|
| 筋肉痛・足のつり | 大量の汗をかいて体内の塩分が失われ、筋肉が異常に興奮して起こります。 |
| 大量の汗 | 拭いても拭いても汗が止まらない状態になります。 |
危険信号:中等症(Ⅱ度)
速やかに病院への受診が必要なレベルです。
| 頭痛・吐き気 | 脱水によって脳の血流が低下し、自律神経が乱れることで起こります。 |
|---|---|
| 強い倦怠感 | 体がすっかり消耗してしまい、起き上がれないこともあります。 |
一刻を争う:重症(Ⅲ度)
入院治療が必要であり、迷わず救急車を呼ぶべきレベルです。
| 意識障害 | 呼びかけへの返答がおかしい、会話が噛み合わない、または意識がない。 |
|---|---|
| けいれん | 全身がガタガタと引きつけるような動きを見せる。 |
| 高体温 | 体に触れると明らかに熱く、異常な高温状態である。 |
| 運動障害 | まっすぐ歩けない、または走ることができない。 |
| 腎障害 | 尿が全く出ない状態になります。 |
尿の色と回数でわかるセルフ脱水チェック
腎臓内科医として、皆様にぜひ実践していただきたいのが尿によるセルフチェックです。腎臓は体内の水分が足りなくなると、水分を維持するため、尿を限界まで濃縮します。
| 薄い黄色 | 水分バランスは良好な状態です。 |
|---|---|
| 濃い黄色から茶色 | 体が水分を求めている脱水サインです。すぐに水分と塩分を補給してください。 |
| 尿が出ない | 半日以上尿が出ない、または量が極端に少ない場合は、すでに腎障害が始まっている可能性があります。すぐに医療機関を受診してください。 |
腎臓内科医が教える正しい熱中症対策
単に水を飲むだけでは、かえって熱中症を悪化させることがあります。
水だけではなく塩分をセットで補給する
のどが渇いたからといって、真水だけを大量に飲むと、血液中の塩分濃度が薄まってしまいます。これを低ナトリウム血症と呼びます。脳がこれ以上塩分を薄めたくないと判断すると、水を飲むのをやめさせたり、尿として水分を余計に排出したりしてしまい、結果的に脱水が進行します。
- 対策: 普段の水分補給には、麦茶や水と一緒に塩タブレットを摂取するか、経口補水液やスポーツドリンクをこまめに飲みましょう。
お薬を内服中の方は特に注意が必要
高血圧や心臓、腎臓の病気で特定のお薬を飲まれている方は、脱水が起こった際に腎臓へのダメージが急激に大きくなるリスクがあります。
| 降圧薬 | 特にARBやACE阻害薬と呼ばれるタイプ。 |
|---|---|
| 利尿薬 | 尿を出しやすくする働きのある薬。 |
| 痛み止め | ロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)。市販の風邪薬や頭痛薬も同様です。 |
これらのお薬を日常的に飲まれている方は、夏場の水分管理について事前に当院へご相談ください。状況に応じた適切な内服アドバイスをさせていただきます。
高齢者と子どもは周囲のサポートを
子どもは体温調節機能が未発達であり、ご高齢の方はのどの渇きを感じにくいという特徴があります。「時間を決めて家族で一緒に水分を摂る」といった、周囲の声かけと仕組みづくりが大切です。
周囲の人が熱中症になった際の応急処置
熱中症が疑われる人がいた場合、以下の手順で対処してください。
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適切な場所への避難
エアコンの効いた涼しい室内や、風通しの良い日陰にすぐ移動させてください。 -
体を効果的に冷却する
衣服をゆるめて風を送り、首の両脇、脇の下、太ももの付け根など、太い血管が通る部位を冷やします。 -
水分と塩分の補給
本人が自力で飲める場合に限り、経口補水液などを飲ませます。意識がはっきりしない場合は、無理に飲ませてはいけません。
早めの対策で腎臓と健康を守りましょう
熱中症は、正しい知識と予防行動で防ぐことができる病気です。「喉が渇いてから飲めばいい」と考えず、早めの対策を心がけましょう。
当院では、熱中症が疑われる方への点滴治療や、採血による腎機能の精密チェックを行っております。「なんとなく体がだるい」「おしっこの出が悪い」といった、ささいな不調でも我慢せず、お気軽に稲沢クリニックまでご相談ください。
| 文責 | 稲沢クリニック 橋本悠作 医学博士 日本内科学会総合内科専門医 日本腎臓学会腎臓専門医 日本透析医学会透析専門医 |
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